• 知財実務情報Lab.

  •  

2018年4月11日
本発明は引用発明とは課題が異なるから進歩性があると言えるのか?(備忘録)

1.「主引用発明の選択」と「課題」の関係

特許・実用新案審査基準 第 III 部 第 2 章 第 2 節 3.3 (2)には、次のように記載されています。

『審査官は、主引用発明として、通常、請求項に係る発明と、技術分野又は課題(注1)が同一であるもの又は近い関係にあるものを選択する。請求項に係る発明とは技術分野又は課題が大きく異なる主引用発明を選択した場合には、論理付けは困難になりやすい。そのような場合は、審査官は、主引用発明から出発して、当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことについて、より慎重な論理付け(例えば、主引用発明に副引用発明を適用するに当たり十分に動機付けとなる事情が存在するのか否かの検討)が要求されることに留意する。』

したがって、原則として、主引用発明は、本発明と技術分野又は課題が同一であるもの又は近い関係があるものになります。

ここで、上記の審査基準には「技術分野及び課題」ではなく、「技術分野又は課題」が同一であるもの又は近い関係があるものは主引用発明になり得ると記載されていますので、課題は近くないが、技術分野が同一または近い場合には主引用発明になり得ることになります。
本発明と課題は近くないが、技術分野が同一または近い関係がある引用発明が主引用発明として適切であるケースについて検討してみます。

例えば、「課題Aを解決する構造Xを備える自転車」を発明したとます。つまり、これが本発明です。

これに対して、審査官が主引用発明として「自転車」を挙げたとします。ここで普通の「自転車」にとって「課題A」は自明な課題ではなく、当業者が容易に着想し得る課題でもないとします。したがって、この場合、本発明と主引用発明とは技術分野は共通していますが(ともに自転車だから)、課題が共通しません。しかし、「自転車」を主引用発明として挙げることに無理はありません。

そして、副引用発明として「課題Aを解決する特殊な構造Xを備えるバイク」を挙げ、主引用発明と副引用発明とは技術分野は関連する(自転車とバイクだから)し、自明な課題(例えば歩いた場合よりも早く目的地へ到着したいという課題)も共通するのだから、主引用発明に副引用発明を適用して当業者が本発明を導く動機付けがあると言うことはできるでしょう。この場合、本発明は、主引用発明と副引用発明に基づいて進歩性がないといえます。

これは、主引用発明の課題は本発明の課題Aと共通していないケースですが、「主引用発明と本発明との課題が共通していないから進歩性がある」とは言えません。

なお、このケースでは、進歩性を否定するロジックの中に「課題A」が登場していません。

以上より、本発明と課題は近くないが、技術分野が同一または近い関係がある引用発明が主引用発明として適切である場合はあるといえそうです。しかし、このようなケースはマレでしょう。

ほとんどの場合、主引用発明は、本発明と「技術分野および課題」が同一であるもの又は近い関係があるものになると思います。

 

2.本発明の課題が新規な場合

また、特許・実用新案審査基準 第 III 部 第 2 章 第 2 節 3.3 (2)には、次のようにも記載されています。

『また、請求項に係る発明の解決すべき課題が新規であり、当業者が通常は着想しないようなものである場合は、請求項に係る発明と主引用発明とは、解決すべき課題が大きく異なることが通常である。したがって、請求項に係る発明の課題が新規であり、当業者が通常は着想しないようなものであることは、進歩性が肯定される方向に働く一事情になり得る。』
これより、本発明の課題が新規である場合、その新規な課題を達成するための手段を検討する思考過程の中に、主引用発明は登場し得ないのだから、そもそも主引用発明は選択されないため、本発明は進歩性を有するといえます。

 

3.本発明、主引用発明、副引用発明のいずれの課題も共通していることが必要か?

発明者の思考過程を考えてみると、まず、発明者は、ある「課題A」を見出します。

そして、その課題Aを解決する手段を探す(検索する)はずです。

そして、課題Aの全てを解決するわけではないが、課題Aをやや解決する手段を見つけたとします。それが主引用発明になります。

次に、発明者は課題Aを解決するために、課題Aを解決するための、さらに別の手段を探します。

その結果、主引用発明をバージョンアップするための手段を見つけたとします。これが副引用発明です。

そして、主引用発明と副引用発明を合体させることで、課題Aを解決する手段(=本発明)を見出したとします。

この場合、本発明に進歩性はありません。

ここで、本発明の課題Aと、主引用発明の課題Aと、副引用発明の課題Aとは同一になります。

これは典型的な分かりやすい例ですし、多くがこのようなパターンになると思います。

これに対して、特許・実用新案審査基準 第 III 部 第 2 章 第 2 節 3.1.1 (2)には、次のように記載されています。

『審査官は、請求項に係る発明とは別の課題を有する引用発明に基づき、主引用発明から出発して請求項に係る発明とは別の思考過程による論理付けを試みることもできる。』

また、特許・実用新案審査基準 第 III 部 第 2 章 第 2 節 3.3 (2)には、次のようにも記載されています。

『ここで請求項に係る発明と主引用発明との間で検討される課題は、3.1.1(2)の課題(主引用発明と副引用発明との間で共通するか否かが検討される課題)と同一である必要はない。』

これをそのまま解釈すると「本発明と主引用発明との課題が共通していて(課題A)、主引用発明と副引用発明の課題が課題A以外の課題(課題B)で共通していても、主引用発明と副引用発明から本発明に想到すると考えて進歩性がないと判断する」となります。

ここで課題Bに関してですが、旧審査基準(最終更新 2010.6)の第2章 新規性・進歩性、2.5 (2) ②には課題の共通性に関して「引用発明が、請求項に係る発明と共通する課題を意識したものといえない場合は、その課題が自明な課題であるか、容易に着想しうる課題であるかどうかについて、さらに技術水準に基づく検討を要する。」と記載されています。これからすると、上記の課題Bは、基本的には「自明な課題または容易に着想しうる課題」に該当するケースと思われます。

例えば、「燃費を高くしたい」という課題があり、従来技術の中から、「燃費を高くできそうなエンジン」を見つけたものの、目標とする燃費には届かないとします。ここで見つけた「燃費を高くできそうなエンジン」が主引用発明となります。

ここで発明者は、その主引用発明をバックアップする手段を見つけることはできなかったものの、「耐久性を上げたい」という自明な課題を解決しようと考え、耐久性を上げるための手段を見つけ、その手段を主引用発明に適用したところ、なぜか燃費が上がり、当初に目標としていた燃費に到達したとします。

この場合、本発明と主引用発明の課題(課題C)は共通し、主引用発明と副引用発明の課題(課題D)とは共通するものの、両課題は共通しません。しかし、この場合であっても、本発明に進歩性はないと判断します。



メルマガ登録

本ページが更新された際に、その旨をメールで連絡します。ご希望の方はメールアドレス・姓名を入力し、「確認」ボタンをクリックして登録してください。

メルマガ登録欄
メールアドレス(必須)
氏名(必須)
TOPへ戻る