• 化学、材料、食品系特許の実務

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2019-02-05  用途発明の研修会を受けてきました。

2月4日の午後は、用途発明に関する研修会に行ってきました。

 

日本弁理士会 中央知的財産研究所
第16回 公開フォーラム

という研修会です。

  

講演者は、北大の田村善之先生や
元知財高裁の三村量一先生などです。

 

毎年、テーマを変えて開催されていると
思いますが、今回のテーマは、用途発明でした。

  

用途発明については非常に興味がありますので、
弁理士会から開催のお知らせのメールがきたとき、
すぐに申し込んだのですが、

その後、申し込み多数で抽選になり、
運よく当選して参加できた次第です。

  

当日、会場には数百人の受講者がいたように思います。

初めに、司会の方から、
申し込み多数で200名が落選した、
とアナウスがありました。
(しかし、席が割と空いているように見えましたが)

  

田村先生や三村先生は、
書籍や論文などを見る限り、
非常に真面目でとっつきにくい人が
想像されると思いますが、
(少なくとも私はそう考えていた)

実際は、非常に面白い人で、
冗談を交えながら
講義をされます。

  

ただし、時間がないためだと
思いますが、
非常に難しい内容を
これ以上ないくらい早口で、
かつ、途中のスライドを飛ばしながら
話しますので、少なくとも
私は半分も理解できません。

  

したがって、講義が終わった後、
資料を見返しながら、
なんとか理解しようと努めまして、

やっと、ある程度は理解しましたので、
特に興味深い箇所を、
ここにまとめておこうと思います。

  

★田村先生の講演より

(1)被告各製品の一部が原告の特許権の特許発明の技術的範囲に属することを認めたにも関わらず、原告が特定した被告各製品を差し止めると、被告が製造した製品毎にX線ランダム強度比の「極大値」を測定しなければならないという多大な負担を強いられることを参酌して、原告特定した被告各製品の差し止めを認めることはできないと判事した例。
東京地判平成27.1.22、平成24(ワ)15621(強度と曲げ加工性に優れたCu-Ni-Si系合金)

工場で製造した製品の性状は完全に一定にはならず、製造誤差等の影響でその性状には、ある程度の幅が生じます。

本件では、性状にある程度の幅があり、全製品のうち16%くらいのものが原告特許権の技術的範囲を満たしていたものです。

ポイントは、原告(特許権者)の請求項が「X線ランダム強度比の極大値が6.5以上」となっているため、

被告は一個の製品のあらゆる箇所を測定して、製品中のいかなる箇所も極大値を超えないことを示さない限り、非侵害との結論に到達し得ない、

という点です。

  

判決では、被告が構成要件Dを充足する被告各製品を製造する可能性があるとしつつも、そのような事態となる蓋然性が高いとは認め難いこと、

原告が特定した被告各製品を差し止めると、被告が製造した製品毎にX線ランダム強度比の極大値の測定をしなければならないという多大な負担を強いられることから、原告が特定した被告各製品の差し止めを認めることはできない。

と判断されました。

  

判決の重要部分を以下に記します。

  

被告の製品において、たまたま構成要件D(=「X線ランダム強度比の極大値が6.5以上」を含む構成要件)を充足するX線ランダム強度比の極大値が測定されたとして、当該製品全体の製造、販売等を差し止めると、構成要件を充足しない部分まで差し止めてしまうことになるおそれがあるし、逆に、一定箇所において構成要件Dを充足しないX線ランダム強度比の極大値が測定されたとしても、他の部分が構成要件Dを充足しないとは言い切れないのであるから、結局のところ、被告としては、当該製品全体の製造、販売等を中止せざるを得ないことになる。

そして、構成要件Dを充足する被告合金1及び2が製造される蓋然性が高いとはいえないにせよ、甲5のサンプル2のように、下限値付近の測定値が出た例もあること(なお、原告は、これが構成要件Dを充足しないことを自認している。)に照らすと、

本件で、原告が特定した被告各製品について差し止めを認めると、過剰な差し止めとなるおそれを内包するもの言わざるを得ない。

さらに、原告が特定した被告各製品を差し止めると、被告が製造した製品毎にX線ランダム強度比の極大値の測定をしなければならないことになるが、これは、被告に多大な負担を強いるものであり、こうした被告の負担は、本件発明の内容や本件における原告による被告各製品の特定方法等に起因するものというべきであるから、被告にこのような負担を負わせることは、衡平を欠くというべきである。

これらの事情を総合考慮すると、本件において、原告が特定した被告各製品の差し止めを認めることはできないというべきである。

  

結局のところ、この判決の特徴は侵害製品の製造を差し止めようとすると、(パラメータを満たすか否かの判断があまりにも大変であるため)不可避的に非侵害製品の製造を止めざるを得ないことを理由として差止請求を棄却した点にあります。

  

パラメータ特許では、特許発明の技術的範囲に属するか否かを判断することがあまりにも大変な場合がありますが、自社で製造販売しているもの一部が製造誤差の影響で他社特許を侵害している場合、その他社特許がパラメータ特許で、かつ、そのパラメータを満たすか否かの判断が極めて大変である場合、この裁判のように差し止めることができない、と言える可能性がありそうです。

  

ただし、可能性がある、というだけであって、自社で製造販売しているものの一部が製造誤差の影響で他社特許侵害している場合、その一部については侵害している、と判断するのが原則ですので、注意が必要です。

★田村先生の資料より(上記に関連すること)。

(2)数値結果の結果にバラツキがある事件に関する従前の裁判例は、そのほとんどが、ごく一部、特許発明のクレームに抵触する数値がでても、それは誤差であると判断して、その結果を無視し、結論として、特許発明の技術的範囲に属しないと評価された結果、侵害が否定された事例であった。

  

(3)特許発明の技術的範囲に属することを否定することなく、ただ不可避的に混入しており、その割合が僅少であり、経済的に無価値(むしろ不良品)であることを理由に、実施に該当しないと評価した裁判例として、漁網の結節(名古屋高判平成9.12.25)が挙げられる。

  

(4)上記(3)は「不可避的に混入しており」「その割合が僅少であるとともに」「被疑侵害者にとってイ号製品は経済的な価値がない、むしろ意図せざる不良品であった」ことを理由に、そもそも実施に該当しないした判決で、差止請求と損害賠償請求はともに棄却された。しかし、上記(1)の例では「不可避的ではあるが」「僅少とまではいいがたく」「経済的な価値も否定されていない事案」で、実施に該当しないとしたのではなく、区別が困難であるために、非侵害品まで差し止めることになることを理由に差止請求が棄却された。ここでは損害賠償は請求されていなかったが、請求されていた場合、理論的には損害賠償が肯定されたのではないか。(by田村先生)

  

  

★神戸大学の前田健先生の資料(+田村先生の資料)より。

知財高判平成18年11月29日、平成18年(行ケ)第10227号では、公知の「美白化粧料組成物」に対して「シワ形成抑制剤」の用途が新規であると判断されたが、この判断には疑問を持つ。つまり、これらの用途が「区別できる」とは思えない。

同様に、知財高判平成26年9月24日、平成25年(行ケ)第10255号では、公知の「芝生を全体的に均一な緑色に着色するために顔料(銅フタロシアニン等)を含む芝生用着色剤を芝生に散布する方法」に対して「芝草の均一性及び緑度を改良するためのフタロシアニンの使用方法」の用途が新規であると判断されたが、この判断には疑問を持つ。つまり、これらの用途が「区別できる」とは思えない。


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