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2020-03-01  「プロレベルで明細書を書ける」とは。

 
明細書の書き方は人それぞれです。
 

それを読む人にとっての書き方の好みも、人それぞれです。
 

よって、絶対唯一の「良い明細書の書き方」というものは存在しません。
 
 
 
しかし、「良い明細書の書き手」というものは存在していると思います。
 

典型的には、多くのお客様(知財部の方とか)が、
 

「この先生はうまいな。次の案件もこの先生に頼みたいな」
 
 
と思ってくれるような「書き手」です。
 

 

そして、そのような「書き手」こそ、「プロレベルで明細書を書ける人」であると思います。

以下では、私が考える「プロレベルで明細書を書ける人」について説明してみようと思います。
 
 
ただし、「私が考える」というだけであって、他の人はそうは考えないかもしれません。
 
 
 

 
 
 
10年くらい前だったと思いますが、

私は、たまたまテレビを付けました。

 

通常、私はほとんどテレビを見ませんが、

そのときは、本当にたまたま、テレビをつけました。
 
 

そうしたら、横綱の白鵬がインタビューを受けている場面が映りました。

 

インタビュアーが白鵬に、

「プロとは何ですか?」

と聞いていました。

 
 
白鵬は、「うーん」と十秒以上考えた後、次のように応えました。
 
 
「自分の型を持ちながら、その型にこだわらない」
 

 
 
私はそれを聞いたとき、

「これだ、これこそが自分が目指すべきものだ」

と衝撃を受けました。
 
  
 
衝撃を受けたからこそ、十年たった今でも、

たまたま付けたテレビでやっていた一瞬の映像を今でも覚えているのです。
 

 
 
白鵬は、おそらく「プロとは」というよりも、

「横綱とは」と質問された場合に対する回答をしたように思います。

横綱は右上手とか、左何とかとか(私は相撲のことはよく知りません)、

「この型になれば絶対に勝てる」

という型をもっているはずです。
 

 
しかし、試合(相撲)が始まってしまえば、相手次第です。どのような展開になるかは分かりません。
 
 
むしろ、自分が最も得意な「型」にハマることの方が少ないでしょう。

 
しかし、それでも横綱は、相手を圧倒して勝つはずです。
 

これが「自分の型にこだわらない」

ということなんだと思います。
 
  
  

 
 
 
さて、上記を相撲の話でしたが、

明細書を書く場面について考えてみると、
 
 
まず、私のように、自分のためにではなく、お客様のために明細書を書くことを仕事にしている人は、
 
頭の中に「最高の明細書像」が入っているはずです。
  
 

よって、私が明細書の中身の全てを勝手に決めて良いのであれば、

私はその「最高の明細書像」に合致するように明細書を作ります。
 
 

 
しかし、実際のところ、例えば発明者様の書いた「発明提案書」があり、
 
打ち合わせのときに聞く発明者様の「発明へのこだわり」があり、
 
その企業様における「その発明の位置づけ」や「製品戦略」があり、
 
「競合他社との関係」などがあります。 他にもいろいろあります。
 
 
 
 
 
「発明提案書」にクレーム案が記載されていれば、

そのクレームをできるだけ尊重しつつ、権利化および権利行使に

耐えることができるプロレベルのクレームに調整します。
 
 
しかも、できるだけ微調整に留めることが理想です。大きく変えてプロレベルにするのは簡単です。
 
見た目はできるだけ小さく変更しつつ、中身はプロレベルになるように変えます。
 

 
「発明へのこだわり」は、明細書の中で篤く記載しますが、
 
篤く書くときに、使う単語を1つでも間違えると権利範囲が狭くなって

しまう可能性があります。そこで、用いる単語1つ1つに細心の注意を

払いつつ、発明者様のこだわりを明細書に表現していきます。
 
 
 
 

「その発明の位置づけ」や「製品戦略」や「競合他社との関係」を

考慮しつつ、場合によっては、新規性がない発明を【請求項1】に掲げたり、
 
よく読んでみると従来技術、課題、解決手段、効果の関係が矛盾している

ような形に仕上げることさえあります。(もちろん、かなり良く読まないと

矛盾していることに気が付かないように)。

 
 
 
このようにして出来上がった出願用の明細書は、私が考える

「最高の明細書像」

に合致していないことが多いです。
  
 
というか、かなり違うことの方が多いです。
 
 
 
 
しかし、私はこれで良いのだと思います。
 
 

これこそが、

「自分の型を持ちながら、その型にこだわらない」

ということなんだと思っています。 
 
 
 

お客様の希望に沿う形で明細書を作りながら、

それでも、うまいこと中間段階で補正しつつ進歩性を主張できる仕組みをさりげなく明細書の中に忍び込ましておいたりして、

最終的には、お客様が欲しい権利、その企業に役立つ形での権利を取ってさしあげます。

  
 
ここで勘違いしてはいけないのは、

「かなりマズイ書き方になってしまっているけど、

お客がそうしたいと言っているのだから、

そのまま出願して権利化できなくても俺のせいじゃないよ。」

というような感じで、
 
単にお客さんの希望に合わせるだけ、というのは良くないと思っています。
 
 

往々にして、お客様の希望に沿うように記載することと、
 
権利化および権利行使しやすい明細書にすること

の2つは相反します。
 
 
しかし、この2つの相反することの両方を満足するように書くことが重要だと思います。

それが「プロの書き手」なんだと思っています。

 
 

自分が考える「最高の明細書像」の形で明細書を作るのは、正直言って簡単です。
 

 
「プロの書き手」は「最高の明細書像」を理解しつつ、

そこから柔軟に、お客様の希望にあわせながらも、お客様に役立つ権利を取得することも提供します。
 

 
別の言い方をすれば、「プロの書き手」は

何十通りもの「最高の明細書像」を理解していて、

相手によってその中をいずれかを選択して提供できる人と言えるかもしれません。
 

 

 
 
 
上記が私自身が考える、

「プロレベルで明細書を書ける人」

ですが、
 

私自身がそこに到達していないような気もします。
  

 
巷に出回っている「明細書の書き方」的な書籍を全てを読んで勉強しているわけではないし、
(以前はほとんどチェックしたが)

 
以前、読み込んでほとんど全部を覚え込んだ審査基準も、今では一部は忘れてきてしまっているし、
 
最新の判例も追い切れてしません。
 
  
 
もっと勉強して、死ぬまでには「プロレベルで明細書を書ける人」を極められるようにしたいと思っています。 
 

 


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